白雪姫と毒林檎
昼休み、やはり一人でポツンと座ったままの麻理子に、明治は自分の弁当箱を差し出した。

「お昼、一緒に食べない?」
「No.Leave me alone.」
「まぁ、そう言わないで。ほらっ」

取り出しかけていた麻理子の弁当箱を奪い取り、明治はにっこりと微笑む。

「返して」
「ヤダって言ったら?」
「Leave me alone!」

立ち上がった麻理子の腕を掴み、明治は笑顔の色を濃くする。そのまま顔を近付け、誰にも聞こえないように小さな声で言った。

「俺の言うこと、聞いておいた方がいいよ?」
「Why?」
「そうしなきゃ、君はここには居られない」

真っ直ぐに自分を見据える明治の褐色の瞳に、麻理子は背中にゾクリと何かを感じた。

恐怖?

いや、それではない何かが、自分の中に入り込んで来るのを感じる。
それがいったい何なのか麻理子にはわからないけれど、真っ直ぐに自分の瞳を見る明治を拒絶することは出来なかった。

「All right.Go together.」
「ジュン、楠さんも一緒でいい?」
「えっ…あぁ、おぉ」

戸惑う淳也に、明治は笑顔で、麻理子は俯いたまま応えた。

教室を出る三人の背を、生徒達がじっと見つめている。それに気付かないほど鈍感な三人ではなく、特に明治はその心地悪さに小さく舌打ちをした。

「お前さー」
「ん?」
「俺さ、時々思うわけ。二重人格ってお前みたいな奴のこと言うんだろなーって」
「何のことだろ。ね?マリー」
「Doesn't matter to me.」
「だってさ」

ふふっと軽く笑う明治に、淳也は呆れた表情で応える。

「ホント怖いよ、お前は。誰に似たんだよ」
「んー。三井先輩?かな」
「呼んだ?」

並んで歩く三人の後ろからひょっこりと顔を出したのは、明治の幼なじみでもあり、淳也の剣道部の先輩でもある三井志保。突然の先輩の登場にシャンと背筋を伸ばす淳也と、シッシッと手を振る明治。それを黙って見つめている麻理子。後輩達の反応は、三者三様だった。

「お疲れ様っす」
「お疲れ、ジュン君」
「呼んでねーから出てくんな」
「あららー。相変わらず悪いお口だ」

めっ!と叱るように頬に指を押し付ける志保の手を払い、明治は麻理子の腕を引く。

「あれ?アキちゃんが女の子連れてる」
「転入生なんっすよ」
「そうなの?可愛い子ね。三年の三井志保よ。よろしくね」

にっこりと笑う志保に、再び麻理子の背中にゾクリと何かが這う。近付いてはいけない。咄嗟にそう判断した麻理子は、俯いて大きく一歩後ずさった。

「あれ?」
「怖いってさ」
「誰が?」
「お・ま・え」

指先でピンッと志保の額を弾き、明治は笑う。それに不満げな表情を向ける志保に、麻理子は得体の知れない不安を覚えた。

「ねぇ」
「ん?」
「Let's go.」
「うん。そうだね。またな、志保」
「あっ!こらっ!学校では先輩って呼べって言ってるでしょ!」
「はいはい。さよーなら、三井せ・ん・ぱ・い」
「もうっ!」

口ではそう言っても、志保は何故だかとても嬉しそうで。そんな志保に両手を合わせて「すいません!」と謝りながら、淳也は去っていく二人の後を追った。
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