白雪姫と毒林檎

優等生の秘密

翌日、揃って仲良く登校した二人の姿に、クラスメイトはおろか親友の淳也でさえも目を丸くした。

「おいっ!アキ!」
「やぁ、おはよう」
「hi,Jun」

慌てて駆け寄る淳也に、二人は笑顔で応える。
昨日とは随分態度が違うじゃないか!と、それを見ていたクラスメイトの誰もが思った。そして、「さすが佐野…」と。

「どっ…どうした、お前」
「What's?」
「ワッツじゃなくて。何があったんだよ、お前ら」
「何も無いよ。ね?マリー」
「…そうね」

にっこりといつもの笑顔を見せる明治と、どこかバツが悪そうに視線を逸らす麻理子。何かあったと言っているようなものなのだけれど、明治の恐ろしさをよくよく知っている淳也には、それ以上踏み込むことが出来なかった。

けれど、「優しい佐野君」だと信じて疑わないクラスメイトは、遠慮無しに詮索してくるのだ。

「おはよう、佐野君」
「おはよう、原西さん」
「いつの間に楠さんと仲良くなったの?」
「ん?」

作られた明治の笑顔には、「それ以上踏み込むな!」という威圧感が漂っている。
けれど、それを上手い具合に読める中学生などそういないのも事実だ。

ビクリと肩を小さく揺らせる麻理子を促して先に席に着かせ、明治は「原西」という少女と視線を合わせた。

「先生から任されてるからね。俺が率先して仲良くしなくちゃ」
「でも…」
「他に理由が必要?」

そこまで言って、少女は漸く言葉の意味に気付いた。そして、「ううん。そうだね」と言い残して足早にその場を去る。

そんな様子を眺めながら「容赦ねぇなぁ…」とボヤいたのは、やはり明治の「親友」というポジションを何年も続けている淳也だ。

「やっぱ怖いわ、お前」
「んー?どの口がそんなこと言うのかな?」
「これこれ、この口。何ならキスでもして黙らせてみるか?」
「何言ってんだよ、バーカ」

突き出した淳也の唇をムギュッと掌で抑え込んだ明治が、苦笑いをしながら席に着く。それと同時に、むにっと温かいものが左の頬に当たった感触がした。

「なっ…!?」
「そうね。こうすれば少しは大人しくなるのかも」
「ちょっ!まっ…マリーっ!?」
「ふふっ。今日はアンタの負けね」

顔を真っ赤にして慌てる明治を指差し、麻理子はふふんっと鼻を鳴らす。
そんな麻理子を恨めしげに見ながら、左頬を押さえたままの明治は真っ赤な顔をしたまま俯いた。

「アキの弱点…みっけ?」
「…うるさいっ!」

ガバッと机に顔を伏せた明治の頭をポンポンと撫でながら、淳也が笑った。
それを見てクスクスと笑い声を上げる麻理子を見上げ、明治は小さく呻く。

「そうゆうの、やめようよ」
「あら。黙らせる手段を教えてくれたのはジュンよ」
「わっ!俺に振るなっての!」
「Naiveなのね」
「よくないよ、そうゆうの」

ガシガシと頭を掻く明治は、まだ耳まで真っ赤に染め上げていて。腹黒悪魔らしからぬその様子に、淳也はとうとう声を上げて笑い始めた。

「煩いよ、ジュン」
「いや、だってお前さー」
「何だよ」
「いやいや。俺さ、お前は先輩とそうゆうのとっくに済ませてるんだと思ってたわ」
「志保と?そんなわけないだろ。アイツは俺なんて相手にしてないよ」
「へぇ。じゃあアキの片想いってやつか」
「そんなんじゃねぇっつーの」

少なくとも、淳也の目にはそう映っていた。

知り合った頃から、明治と志保はいつでも一緒。さすがに学年が違うだけに教室までも、というわけにはいかなかったけれど、登下校は勿論のこと、クラブ活動や通っている塾までもが同じだったものだから、中学生になって当たり前にそうゆう関係になっているものだとばかり思っていた。

「志保は志保だよ」
「何だよー。ホントは好きなんじゃねーの?」
「だから違うっつってんだろ」

そんな男二人のやり取りを不思議そうに眺めていた麻理子は、ふと教室中から自分に集まる視線に気付く。そっと辺りを見渡せば、女子も男子も関係なくコソコソと何か好からぬ話をしているではないか。

「だから日本人は嫌いなのよ」

ボソリとそう吐き捨て、麻理子はバンッと机を叩いて立ち上がった。
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