その指に触れて
いざ差し出されると、がつがつといきづらくなってしまう。


くっそう。あたしは泣きそうな遥斗が見たいんだ。変態だと思われても、あたしは遥斗の泣き顔が見たいんだ!


「遥斗って」

「ん?」

「綺麗だなって」

「何が?」

「指」

「思ったの?」

「うん」


あたしは遥斗の指を掴んでまじまじと見つめた。


間近で見てもやっぱり綺麗な形をしている。


白くて細くて長くて、肌はきめ細かい。


爪も細長くて形がいい。


その白さに目がチカチカしそうだ。


じっとその指を見つめていると、なんだか頭がクラクラしてくる。


──美味しそう。


ごくりと喉が鳴る。わずかに口を開いてみる。


食べちゃ…………


「食べないでよ、俺の指」


無惨にも未知の世界からあたしを現実に引き戻したのは、遥斗の声とあたしの頭を軽く叩いた左手だった。


「……なんでわかったの?」

「そんな顔してたから」

「どんな顔?」

「肉食獣みたいな目してた」


でしょうね。食べたいって思っちゃったもんね。


くそっ。なかなか鋭い男だ。



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