その指に触れて
行きたいけどどうしても行けない。


平日三日間と土曜日は晃彦の家に行き、水曜日は部活。


だから、美術室に行くのは自然と週一になってしまった。


元カレの誘いなど断ればいいのだ。でも、あたしはそれができない。


物語の主人公ならば、いったん好きでない男に何かされたら、好きな男の前には現れなくなる。罪悪感とか、背徳感とかで。


あたしは図々しい女なのだ。誰かに求められたくて、それでも好きな人の傍にいたい。


ただ、今は前者の方が比重は大きいだろう。


初めて晃彦に抱かれた日に入っていた着信は、遥斗からだった。


帰ってからそれに気づき、あたしはいたたまれない気持ちになって、結局かけ直すことはしなかった。


自棄も入っているのかもしれない。


あたしにとっての初めては、人生においてそれほど重要なことではなかったのだ。


付き合っていた頃はあんなに拒否っていたのに、こんなにもあっさり受け入れてしまう、そんな女なのだ。


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