その指に触れて
遥斗から顔を背けて机に突っ伏すと、なぜか泣けてきた。


目を閉じると、一筋の水があたしの頬を伝う。


「……万梨ちゃん、眠いの?」


視界の隅であたしを捉えたらしい遥斗は泣いたことには気付かなかったようだ。


遥斗に泣き顔は見せたくなかった。


「うん……ちょっと」


上擦った声が出たけど、遥斗はそれに触れようとしなかった。


「膝枕して」


言った瞬間、あたしは後悔した。


遥斗今、絵描いてるし。あたしの頭なんか乗せたら完璧に邪魔でしょ。


なんてことを言ってしまったんだと顔を背けたまま自分の馬鹿さを嘆いた。


「別にいいけど」

「は?」


あたしは思わず机から顔を上げていた。


遥斗は平然とした表情で花瓶の花に目を向けていた。確か、ナデシコ。


秋の七草の一つで、花が咲くのはほんとは九月までなんだけど、今年は暑いからねと遥斗は言っていた。


あたしはそんなことより、そんな珍しい花、どこで手に入れたんだかと思ったけど。


遥斗にこんなに見つめられて、綺麗に模写してもらうナデシコはさぞかし幸せだろう。


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