その指に触れて
「……いいの?」


そんなどうでもいいことを考えてしばし現実逃避していたあたしは、ぽかんとしていた。


「万梨ちゃんから言ってきたんでしょ。言っとくけど、何かしたら床に転がしてさっさと帰るからね」

「しないよ」


今のあたしは、遥斗に何かいたずらしようと思えるほど余裕はない。


本格的に眠くなってきたし。


「あたしの頭、重くない?」


遥斗のデッサンを邪魔しないように遥斗の腕の下を通して頭を膝の上に乗せる。


うわ、想像以上に恥ずかしいかも。


「集中してるから気にならない」


そう言う遥斗の顔を見上げると、固く引き締まった顔が横を向いていた。


この角度、悪くないかも。


「……遥斗の膝、固い。細い。狭い」


さすが男の子というべきだろうか。脂肪らしきものは全く感じられない。


あたしの脂肪を半分分けても、体脂肪率一桁なんじゃないの?


「文句言ってると振り落とすよ」

「なんか今日の遥斗、凶暴」

「寝ないの?」

「寝る。おやすみ」


帰る時間になったら起こしてと言うと、遥斗は曖昧に頷いた。


遥斗だからできるんだろうな、こういうこと。


目を閉じると、睡魔が襲ってきた。


こんなの、他の男には頼めないことだ。椅子に座って膝枕で寝てるから、起きたら体中痛くなるだろうけど。


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