その指に触れて
その日、あたしは晃彦に校門で待っててとメールで言われた。


初めてのことだった。いつもはあたしが晃彦の家に行っていた。


やだな、と思いつつも、放課後になりすぐに教室を出るとあたしは校門の傍で立っていた。  

あたし達はもう付き合っていないのに、噂になるのが嫌だった。それに、知り合いに見られて三人の耳に入らないかとも心配になった。


「万梨子、お待たせ」


しばらくして晃彦は満面の笑みでやってきた。あたしはその顔を軽く睨みつける。


「今日は何の用?」


早くここから立ち去りたい。その気持ちが募って焦る。


「ちょっと、話があってさ」

「だったら家でいいじゃん」

「たまには違う場所もいいかなって」

「……わかった。早く行こう」

「お、今日は積極的だね」

「いいから、早く連れてって」


晃彦はまだ満面の笑みで歩き始める。あたしはその歩幅よりも早いくらいの早歩きで足を進めた。


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