その指に触れて
「万梨ちゃん」


一瞬の出来事だった。


遥斗の手があたしの頭の後ろに回り、引き寄せられる。視界が暗くなり、覆うように唇を重ねてきた。


ずっと見てきたそれは、今まで触れてきたどんなものよりも柔らかかった。


「……やっちゃった」


一瞬であたしの視界が明るくなって、遥斗は再び涙を流した。


「もう、泣かないでよ、遥斗」


あたしまで目の奥に熱を持ってきた。


遥斗の頭を抱きしめると、遥斗の上擦った声が腕の中から漏れた。


「万梨ちゃん……もう、自分を、傷付けないで」

「わかったから、わかったよ、遥斗、もうしないから。もう、泣かないで……」


涙で瞳が潤んでくる。


泣くもんか、とギュッと目をつぶって遥斗の髪に顔を埋めた。


泣かないと決めたのに、噛み締めた唇から嗚咽が漏れる。


もう、嫌だ。


遥斗、あんたはなんであたしを泣かせんのよ。


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