その指に触れて
泣かないように顔をしかめて遥斗に近づくと、「万梨ちゃん、怖いから」と遥斗は苦笑した。


「万梨ちゃん、あのね……」

「遥斗が本気なら、あたしは邪魔しない。関わらないっていうなら、あたしは潔く身を引く」

「……ずいぶん、怖いけど」

「あたしも忘れてたんだけどさ」

「え?」

「モデル料、まだ貰ってなかったんだよね」

「モデル?」


首を傾げた遥斗はすぐに「ああ、思い出した」と頷いた。


あたしが遥斗の絵のモデルの代わりに一週間分のタピオカオレンジを買ってもらったやつだ。あと二週間分残っていた。


「あの絵も入選止まりだったけど」

「遥斗の実力でしょ。選ばれるだけ幸せって思いなさいよ」

「で、モデル料って?」

「ほんとはね、デートしてって言いたかっんたけど」

「……マジで」


一瞬だけどかなり嫌そうな顔したよ、こいつ。


憎らしいな、ほんと。


「言っとくけど、こんなんでデートはあたしも嫌だから」


あたしは遥斗の手を握る。今日も温かい。


「最後だから」

「え?」

「キス……してもいい?」


さすがのあたしも恥ずかしい。


抵抗しない遥斗の手を強く握る。


頬が火照るのを感じた。


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