その指に触れて
「……それ、いつの話?」


晃彦の屈託のない笑顔に、思わず笑いそうになる。


「付き合ってた時」

「ほんと、今更だよね。浮気したくせに」

「でも好きだった。女とか、そんなことなしに」

「……ありがとう」


好きだったと言われて、嫌な気持ちにはならない。


「じゃあね」


笑いそうになって教室を出たら、汐香と睦実と瞳が壁に耳をくっつけていた。


「……何してんの?」


あたしが声をかけると三人が同じ顔であたしを見てきたもんだから、笑ってしまった。


「ぬ、盗み聞きじゃないからね」

「う、うちらはただ、万梨子が心配で」

「万梨子が中村くんにまた何かされんじゃないかって、それで……」


三人がまた同じ顔をしてあわあわするもんたから、あたしは声をあげて笑った。


あたしって、幸せ者なんだ。


友達にこんなに心配してもらえる、幸せ者なんだ。


「何もされなかったよ。大丈夫」


「よかったよー」と、心底安心した三人を見て、また笑った。


あたしが二人の男と決別したことは何も聞かれず、あたし達はそのまま帰路についた。


友達がいてよかった。


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