その指に触れて
ねえ遥斗。遥斗って、ほんとずるいよね。


突き放すくせに、あたしを余計好きにさせたんだから。


本当に嫌だったら、断ってくれてもよかった。むしろ断ってくれた方が忘れられるかもなんて思った。


「簡単に諦めんな」


あれね、すごく嬉しくなったんだ。


いつも優しいから、軽く命令調なのが嬉しかった。勘違いとわかっていても、あたしに心を開いてくれたみたいで。


しかもご丁寧に頭まで撫でちゃってさ。頭撫でられるの、あたしが弱いこと知っててわざとやったのか?


ほんと、憎らしい。遥斗に叫んでやりたいほど憎らしい。


結局、遥斗は抱かれなかったな。汚い体って思われたかな。そりゃそうか。晃彦はセフレみたいな、いやもはやセフレの関係だったからな。


遥斗に知られたくなかった、でも気を引かせたかった。


自分の体を犠牲にしてまで気を引かせようとか……今となっては笑うしかない。


それで、何が残ったというのだ。


遥斗にフラれたあたしには、遥斗が好きだという思いしか残っていない。


それを証明できるものなんて何もない。


遥斗と話して、キスして、気を引かせようとして、それで何が残ったのだ。


あたしはきっと、これから遥斗以外の男も好きになるのだろう。


これからも遥斗をずっと思い続けるなんて、そんな保証どこにもない。


処女を失ったから、なんだ。


女になれたからって、なんだ。


結局、一番振り向いて欲しかった人はなびかなかったじゃないか。


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