その指に触れて
あたしは東京の中堅大学が精一杯だった。それだけの話だ。


「じゃあ、そろそろ行くね」

「夏には帰ってきてよ」

「うん」

「また連絡する」

「待ってる」


あたしは鞄を持って、三人に手を振って背中を向ける。


軽く目を閉じると、瞼の裏で遥斗の顔が浮かんですぐ消えた。


あたしもいい加減、しつこいよな。


あたしは卒業式に見た遥斗を思い出していた。その横顔は最後に対峙した時より硬く引き締まって見えた。


遥斗は前に進んでいるのだ。そう思った。


あたしは進めていない。いつまでも遥斗のことばかり考えている。


おかしいよね。あれから一度も話していないし、メールもしていない。傍に遥斗がいるということなど、一年以上感じなかったのに。


あたしは執着しているのだろうか。それともまだ何か期待しているのだろうか。遥斗があの時言った言葉を撤回してくれるような出来事を。


ばかだよな。自分で自分を嘲笑う。


改札口を通り、新幹線に乗り込む。


新たな生活と共に、こんな気持ちなど捨ててしまえばいい。


それが、三月。


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