その指に触れて
夢を見た。


遠くに遥斗と晃彦がいて、あたしを呼んでいる。


遥斗…………。


あたしは躊躇なく遥斗に手を伸ばす。


『万梨ちゃん』
『万梨子』


あたしは動きを止める。


『万梨ちゃん』
『万梨子』


なぜか吐き気が起こる。


……何だ?


二人の声が、違う。


二人の声が入れ替わっていた。


声だけじゃない。呼び方まで入れ替わっている。


遥斗が晃彦の声で『万梨子』と呼び、晃彦が遥斗の声で『万梨ちゃん』と呼んでいた。


『万梨ちゃん』
『万梨子』


二人の声がこだまして、あたしの鼓膜を何度も震わす。


何だ、これは。


あたしは、どちらに手を伸ばせばいいのか。


あたしは、どうすればいいのか。


──キモチワルイ。


耳を塞ぐ。それでも二人の声は頭の中で繰り返されていた。


口を開ける。声が出ない。


やめて。やめて。やめて。


遥斗、やめて。これ以上、あたしを苦しませないで。


──万梨ちゃん。


「──遥斗っ!!」


< 195 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop