その指に触れて
「……は?」


モデル?


「……何の?」

「俺の絵の!」

「は?」


訳が分からない。


「俺、何度か女の子にモデルを頼んだことあるんだけど、毎回違う子に頼むのってめんどくさいんだよ。万梨ちゃんが俺の専属モデルになってくれない?」

「な、なんであたしが?」

「メガネかけた子、描いたことないから!」


メガネが選考理由かい。そこはせめてお世辞でも顔って言いなよ。


「ていうか、メガネをかけてるんなら、わざわざあたしじゃなくても……」

「万梨ちゃん、忙しくないでしょ? この時間にここに来られるってことは」

「……そりゃあ、運動部とか吹部の人と比べれば」


今の時間、大抵の運動部や吹奏楽部の人はみんな活動している。外からは声が聞こえるし、楽器を演奏する音も聞こえるし。


ええ、あたしは暇人ですよ。家庭部だから厳しいことなんて何ひとつないし、楽ですよ。週一の活動ですし。ええ、忙しいなんて無縁ですけれども。


「メガネをかけた忙しくない人ってけっこう希少価値なんだよ。メガネ女子って、吹部に集まってるから」

「……何それ」


悪かったな、忙しくないメガネ女子で。


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