その指に触れて
「ていうか、その一ヶ月後には何があるの?」

「次のコンクール。俺は出す気なかったけど、出せるうちは出しとけって先生に言われたから。そのお題が人物画」

「そのモデルが……」

「万梨ちゃん」


いやいや、待て待て待て。


「それ、先に言おうよ」

「え?」

「あたしの顔がいろんな人に見られんの? 嫌なんだけど」

「いや、みんなが見るのは、俺の絵だから」

「その絵にあたしが描かれるんでしょ? ……遥斗」

「何?」

「あんたの腕次第ってことか」

「へっ?」

「あたしの顔」

「……万梨ちゃんの写真が出されるんじゃないんだから、そんな嫌がらなくても」

「それでもあたしの顔だろーがあ!」


いきなり胸ぐらを掴んだら、「ひえええっ」とまた情けない声が遥斗の唇から漏れた。


「そんなんでいちいち目うるうるしないでよね」


目を背けてぱっと胸ぐらから手を離すと、「へ?」と間抜けな声。


欲情するっつの。


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