その指に触れて
「万梨ちゃん?」


首を傾げる遥斗に、あたしはにっと笑って見せた。


「色気作戦~」

「え? だからあれは審査の対象外だって……」


あたしは椅子を持ち上げて窓のそばに置いて座った。


「何、それ?」

「『窓の外にいる好きな人を眺めるあたし』的な」

「……それ、色気作戦なの?」

「まあ、正直色気はないけど。あたし、外眺めるの好きだし」

「ふうん……」

「どうしても色気出して欲しいなら、あんたにキスするけど」

「いや、遠慮しとくよ」


チッとわざと遥斗に聞こえるように舌打ちする。


いいチャンスだったのに。


「まあ……でも他に思い付かないもんなあ」

「意外に頭堅いんだね。さっきの腕組みとか論外だよ」

「余計なお世話だよ。とりあえず今日はデッサンしてみるね。俺の椅子と絵の具たち持ってきて」

「はーい」


あたしは遥斗の言う通り、椅子と絵の具の入った透明な箱を持つ。


「絵の具、落とさないでよ。高いから」

「いくら?」

「秘密ー」


それくらいいいものらしい。


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