その指に触れて
生憎の雨で窓の外を見ることができない。


晴れてたらこのじっとしているという苦痛もいくらか紛らわせられたのに。


あー、モデルって辛い。


暇。ていうか、なんか落ち着かない。


じっとしていなければならないからだろうか。動くなと言われるほど動きたくなるのが人の性だ。


それとも、この空間にあたしと遥斗の二人しかいないと意識しているからだろうか。


木炭の棒切れがキャンバスを滑っている音以外は何も聞こえない。


それさえなければ、離れている遥斗の息遣いさえ聞こえそうなのだ。


……あたしの耳に遥斗の息がかかったらどうなってしまうのだろうか。


熱い吐息。触れる指先。その時それはあたしのものだろうか。


……やばいやばい。昼ドラ思考になってる。


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