その指に触れて
しばらくして「できたよー」という緊張が抜けた声がして、あたしはようやく苦痛から解放された。


二人同時に背伸びをする。


「万梨ちゃん、お疲れ様でしたー」

「こちらこそー」


なんだかそれだけで嬉しい。


「見ていい?」

「どうぞ~」


うーん、惜しい。


遥斗の返答が「うん」だったら『耳をす○せば』のワンシーンになったのに。


どうでもいいことを考えてキャンバスに歩み寄る。


「やっぱりうまいな~」


キャンバスを覗き込むと、窓と対面しているあたしが白黒で写し出されていた。


「うん。まあまあだね」

「これに絵の具を塗っていくんでしょ?」

「うん。意外に早く終わるかもね」

「あたし、これから必要ある?」

「とりあえず週末以外は毎日来てよ。確認したい時とかあると思うから」

「こりゃあ、暇人じゃなきゃモデルは務まんないわ」

「でしょ? だから万梨ちゃんに頼んだの」

「選出理由がそれってのもね~」

「何?」

「なんでもなーい」


「万梨ちゃんだから頼んだんだ」。その理由を好きだからと言ってくれるはずはないか。


期待しちゃってんなあ、あたし。


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