その指に触れて
「ま、万梨ちゃん、ダメ!」


目の前の遥斗の声であたしは動きを止めた。


動きと一緒に力も弱まったらしく、遥斗はあたしの指から手首を離して、あたしの頬に触れた。


「それだけはダメだよ、万梨ちゃん」


あたしの気持ちを落ち着かせるように、遥斗の指がゆっくりとあたしの頬を撫でる。


遥斗は怒っていなかった。


穏やかな表情で目の前のあたしを見ている。


「遥斗……」

「万梨ちゃん、正気ならわかるでしょ?」


落ち着いた言い方に、あたしは羞恥で顔が熱くなった。


あたし……何やってんだ。


がつがつしちゃって、みっともない。


勘違いにも程がある。


遥斗はあたしを煽るつもりで言ったわけではないのだ。


遥斗は体を起こして、しばらくあたしの頬を撫でていた。


あたしはすっかり力が抜けて、床にぺたんと座って遥斗の指の温もりを感じた。


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