この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
慌てておっちゃんの上から降りると、これ以上下げれないというくらい頭を下げる。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「あ、いや、大丈夫だから……」
腰をさすりながら立ち上がったおっちゃんが苦笑いしてる。どうやら怪我はしていない様だ。
でもこのおっちゃん、グレーのスラックスに地味なチェックのジャケットで、なんか田舎のオッサンって感じ。
それに、どこで買ったの? って突っ込みたくなる様な安っぽいペンギンのタイピンしてる。会社の人じゃなさそうだな。
そう思った時、服の汚れを掃ったおっちゃんが顔を上げ、私を見たとたん動きが止まった。そして、私のことをマジマジと見つめる。
「あの、何か?」
「君、ここの社員?」
「そうですけど」
「失礼だが、名前聞いてもいいかね?」
「はい、神埼ですけど……」
「かん……ざき」
私の名前を何度も繰り返し呟く怪しげななおっちゃん。
「どうかしました?」
「いや、そうか、神埼さんか」
何がそうなんだろう? 神埼なんて名前、そんな珍しくないでしょ?まさか、転んだ時に頭打っておかしくなっちゃったとか?
焦点の合わない目をしてブツブツ独り言を呟きながら階段を下りて行くおっちゃんを見て心配になった。
確かあのおっちゃん、上に行こうとしてたはずだけど……大丈夫かな?
あぁっ、それより人事部に行かなきゃ! 早くしないとまた銀にドヤされる。
慌てて階段を駆け上がり、人事部のドアを開けるとなぜか橋倉さんが居る。
「あれ~橋倉さん、何してるんですか?」
「あれ~じゃないわよ! あなたが遅いから部長に社員名簿を取ってくる様に言われて来たのに、どこに行ってたの?」
「あ、いや、階段でちょっと……」
そこまで言いかけて、人事部の異様な雰囲気に気付く。シーンと静まり返り、全員がどんよりした顔してまるで葬式みたいだ。
「橋倉さん、人事部って暗いっすね?」
「な、なんてこを……こっち来なさい!」
焦りまくった橋倉さんに廊下に連れ出された。