この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

「神埼さん、あなた知らないの?」

「はい?」

「人事部で恋愛沙汰があったこと」

「あぁ、加藤部長の件でしたら知ってますけど……」

「そのことでたった今、人事部全員が常務にお叱りを受けたとこなのよ。だから人事部の人達は元気がないの」

「常務って……社長の奥さん?」

「あら、よく知ってるわね。社内恋愛を禁止したのはその常務らしいから、かなりご立腹だったそうよ」


悪の根源は常務だったのか。恋愛は自由なのに、なんちゅー女だ!


「なぁに? 神埼さんが怒ることないでしょ? それより早く名簿を部長に届けなさい」

「あ、そうだった……」


急いで部長室へ行くが、そこに銀の姿は無く、近くに居た課長に尋ねると……


「部長なら、さっき出てったよ」

「なにぃ~っ」


人にモノを頼んどいて居なくなるとは、どういう了見だ! どいつもこいつもムカつくなぁ~


銀のデスクに社員名簿を放り投げ、部長室を出るとちょうど定時の5時。


とっとと、帰ろう。



    *****


――その日の夜、華を寝かせてボンヤリしてるとミミさんが呼びに来た。


「ミーメちゃん、お店に横田さん来てるわよ」

「あ、分かった。すぐ行く」


あれから横田さんは『エデンの園』に来てなかった。だから、お礼も渡せずにいたんだ。


お店に下りてカウンターでひとりブランデーを飲んでいる横田さんの隣に座る。


「やあ、ミーメちゃん。久しぶりだね」

「あ、はい。先日は娘のがお世話になりました。本当に有難うございます。あの……こんなので申し訳ないんですが、受け取って下さい」


少し驚いた顔をした横田さんだったが、私が渡した小さな紙袋の中を覗き込むと凄く嬉しそうに笑った。


「これを僕に?」

「私、貧乏だから……すみません」


すると、なぜか横田さんの瞳がウルウルしだしたんだ。


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