この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

――お父さん……


私の記憶の片隅にさえ残ってない顔も知らないお父さん。


両親が離婚した時、お母さんはお父さんに関わる物全てを処分してしまったから、面影すら浮かんでこない。


借金を残し、私とお母さんを捨てた憎い人。そのせいで私たちがどんなに苦労してきたか……


今でも恨んでることには変わりない。変わりないけど……もし、お父さんが私に会いたいって言ってきたら……


私はそれを拒むことが出来るかな? だって、この世でたったひとりのお父さんなんだもん。せめて、どんな顔してるのかくらい知りたい。


「おっちゃん、これだけ教えて。その人は、私の身内なの?」


おっちゃんは少し困った表情をして考え込んでいたが「そうだよ」と頷き、目を伏せる。


その答えを聞いた瞬間、私の疑問は確信に変わったんだ。


そうだ。きっと、その人はお父さんだ。


「さあ、せっかくの天ぷらが冷めちゃうよ」

「……うん」


それからおっちゃんは、私のことを色々聞いてきた。どこに住んでるのかとか、ちゃんと生活出来てるのかとか。


「そう言えば、さっき彼氏がいるって言ってたよね? どんな人?」

「んん~…どんな人って言われても……」


説明するのが非常に難しい。


「見た目はね、凄くカッコいいんだけど、性格がちょっと問題アリなんだよね~」

「性格が? まさか……暴力を振るわれたりしてたいだろうね?」


おっちゃんの顔色が変わり、凄い形相で迫ってくる。


「暴力?」

「そうなら隠さず私に言いなさい。君にそんなことする男なら、私が会って話しをつけてあげるよ」


おっちゃん、真剣に怒ってる?


でも、どうして? おっちゃんには、なんの関係も無いことなのに、どうしてそこまで感情的になるの?


「大丈夫だよ。暴力なんて受けてないから」

「本当なんだね?」

「うん」


おっちゃんはまだ半信半疑の様な顔していた。


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