この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
目覚めたのは翌朝――
「ぎーん! もう8時だよ!」
「バカ! なんでもっと早く起こさないんだ!」
「私のせいにしないでよ~」
あぁ~また無断外泊だ。華とママの怒ってる顔が目に浮かぶ。
慌てて服を着てホテルを飛び出し、途中、タクシーを拾って会社に直行。
「8時45分までに着かなかったら、陸運局に通報する」
まったく意味不明の脅し。でも、そのお陰なのか、会社のビルの前にキッカリ8時45分に到着。
「よくやった。釣りはいらねぇ」
タクシーの運ちゃんに銀が一万円札を投げるとオフィスまで全力疾走。
タイムカードは、8:59
「なんとか間に合った……」
銀は何ごとも無かった様に、すまして自分の部屋に向かい、私は自分のデスクに腰を下ろす。
「神埼さん、マズいわよ」
声を掛けてきたのは、橋倉さん。
「マズい?」
「そうよ。部長と一緒に……それも、出社時間ギリギリに飛び込んでくるなんて、皆おかしいって思うでしょ?」
「あ……」
何気なく辺りを見渡すと好奇な視線が乱舞してる。中にはヒソヒソ話しをしながらこちらを見てる人も……
「以後、気をつけてちょうだい。もし、バレるようなことがあったら……分かってるわね?」
「ひぃ~!」
橋倉さんの周りにどんよりとドス黒いオーラが渦巻いてる。銀のことがバレたら、マジで呪われるかも……
「でも、仲直り出来たみたいね」
「え? あ、まあ、一応……」
「もちろん、キスとか……したわよね?」
「は、橋倉さん?」
「部長の唇が触れたその唇……私にも……」
私の頭を両手で掴むと尖がった真っ赤なルージュの唇が迫ってくる。
さっきとはまた違う寒気がした。
「やめて~橋倉さん! 落ち着いて~」
彼女の唇が私の唇まで、あと数センチ。絶体絶命。もうダメだ……そう思った時だった。橋倉さんのデスクの電話が鳴った。
間一髪! 身をひるがえし、橋倉さんの恐怖のキスをかわす。