この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

目覚めたのは翌朝――


「ぎーん! もう8時だよ!」

「バカ! なんでもっと早く起こさないんだ!」

「私のせいにしないでよ~」


あぁ~また無断外泊だ。華とママの怒ってる顔が目に浮かぶ。


慌てて服を着てホテルを飛び出し、途中、タクシーを拾って会社に直行。


「8時45分までに着かなかったら、陸運局に通報する」


まったく意味不明の脅し。でも、そのお陰なのか、会社のビルの前にキッカリ8時45分に到着。


「よくやった。釣りはいらねぇ」


タクシーの運ちゃんに銀が一万円札を投げるとオフィスまで全力疾走。


タイムカードは、8:59


「なんとか間に合った……」


銀は何ごとも無かった様に、すまして自分の部屋に向かい、私は自分のデスクに腰を下ろす。


「神埼さん、マズいわよ」


声を掛けてきたのは、橋倉さん。


「マズい?」

「そうよ。部長と一緒に……それも、出社時間ギリギリに飛び込んでくるなんて、皆おかしいって思うでしょ?」

「あ……」


何気なく辺りを見渡すと好奇な視線が乱舞してる。中にはヒソヒソ話しをしながらこちらを見てる人も……


「以後、気をつけてちょうだい。もし、バレるようなことがあったら……分かってるわね?」

「ひぃ~!」


橋倉さんの周りにどんよりとドス黒いオーラが渦巻いてる。銀のことがバレたら、マジで呪われるかも……


「でも、仲直り出来たみたいね」

「え? あ、まあ、一応……」

「もちろん、キスとか……したわよね?」

「は、橋倉さん?」

「部長の唇が触れたその唇……私にも……」


私の頭を両手で掴むと尖がった真っ赤なルージュの唇が迫ってくる。


さっきとはまた違う寒気がした。


「やめて~橋倉さん! 落ち着いて~」


彼女の唇が私の唇まで、あと数センチ。絶体絶命。もうダメだ……そう思った時だった。橋倉さんのデスクの電話が鳴った。


間一髪! 身をひるがえし、橋倉さんの恐怖のキスをかわす。


< 154 / 278 >

この作品をシェア

pagetop