この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

田村さんに言われるまま雑然と並ぶパイプ椅子に腰掛けると、彼女が私の前に向き合って座る。


そして徐に数枚の束ねた紙を私に見せた。


「あなた、何者?」

「はぁ?」

「父親が外交官で、ホンジュラス共和国出身。そして、オックスフォードに留学……これ、全部嘘よね?」

「えっ……」


田村さんの手からその紙を奪い取り、震える手でページを捲るとそれは、私の履歴書のコピーと本当の経歴が書かれた報告書。


「本当の父親は幼い頃に失踪……母親も行方不明。留学なんて、真っ赤な嘘! パスポートを取得したことさえないわよね?

それに、高校を中退してるって? よくもまぁ~ここまでぬけぬけと嘘が書けたものね。怒りを通り越して呆れたわ」


返す言葉も無い。そのとおりだから……


「この履歴書で採用されたのなら、神埼さん、会社を騙して入社したことになるわよね? それって、イケナイことなんじゃない?」


見下す様な彼女の視線を感じながら、私は成す術なくうな垂れる。


「部長も共犯なの?」


一段と低い声で囁く様に聞いてくる。


「ち、違います」

「そう、じゃあ、部長も騙されてたってこと? でも、確か部長は、イギリスに留学した時にあなたと出会ったって言ってたわよね。それって変な話しじゃない?

それに、そのスーツ……」

「えっ? スーツ?」

「昨日と同スーツよね。不思議なことに、部長も昨日と同じスーツ着てるのよ。これって、偶然かしら?」


なんちゅー観察力。というより、毎日、誰がどんな服着てきてるかチェックしてるなんて、スゲー暇人。


でも、彼女の言っていることは当たってる。トボけて銀とのこと否定しても、もう無駄みたいだな。開き直るしかないか……


「何が望みなの?」

「望み? ふふふ……望みねぇ~そんなの一つしかないでしょ?」

「ハッキリ言ってよ!」


長い脚を組み替えた田村さんが小悪魔の様に微笑む。


「簡単なことよ。部長の補佐を降りてちょうだい。そして、部長と別れて欲しいの」

「えっ……」

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