この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
銀と……別れる?
「嫌とは言わせないわよ。神埼さんが断れば、このこと会社に言うわ。あなたも知ってるわよね? 社内恋愛がバレれば、男性は左遷。
もちろん、出世レースからも脱落。部長の将来は無いわ」
人差し指で長い巻き毛をクルクルしながら、私の反応を観察してる。
「田村さん、あなた、部長が好きなんでしょ? なのに、そんな酷いこと出来るの?」
「好きだから出来るのよ」
「好きだからって、どういうこと?」
「神埼さんに言っても分かんないだろうげど……」
人を小バカにした様に笑い、鞄からシガーケースを取り出すと細いメンソールのタバコを慣れた手つきで銜える。
「ウチの会社、世の中じゃあ大企業なんて言われてるけど、古い体制の面白みの無い会社よ。未だに世襲制を重んじてるなんてバカみたい。
部長がどんなに頑張って出世したとしても、たかが知れてる。私はね、部長の実力を知ってるの。彼は、もっと上に行ける人よ」
私のおバカな頭では、彼女が何を言いたいのかサッパリ分からない。
「それが、何?」
「ふふふ……理解出来ない? 要するに、部長の活躍の場はここには無いってこと。そして、部長の才能を欲しがってる会社が有るってことよ」
「それって、もしかして……」
ヘッドハンティング?
「やっと分かったみたいね。でも、部長を欲しがってる会社もしたたかでね。今すぐにとは言わない。
あと2~3年、この会社で実績を上げ、社の内部事情に詳しくなった頃に来て欲しいそうよ」
タバコの煙を細く長く吐き出し、田村さんは得意げに口角を上げる。
「私だってね、部長に傷はつけたくない。ても、神埼さんが断るなら仕方ないわ。あなた達のこと密告して、部長には左遷してもらう。
プライドの高い部長のことだもの。左遷されるくらいなら辞表を出すでしょうね。
そうなれば少し早いけど、例の会社に掛け合って、部長を引き受けてもらうつもりよ。その時は、私も部長と一緒に行くわ」
「それ、部長は知ってるの?」
「知ってるワケないじゃない。これは極秘で進められてる話しなんだから」