この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
体の震えが止まらない。脚がガクガクして、その場に座り込む。次から次へと溢れ出る涙は何度拭っても追いつかない。
――銀……
堪らず声を上げ泣き出した私の背後で、微かに足音が聞こえた。開け放たれたドアの向こうから近づいて来る革靴の音……
「どうした? 泣いてんのか?」
この声は……
「何があったんだよ?」
私の肩を揺すったのは「赤毛さん……」
「なんだ? またケツでも打ったか?」
そう言って優しく微笑む彼の顔を見た瞬間、私は大声で泣きじゃくってしまった。
「とにかく、ここは人が来る。俺のデスクに来い」
体を支えられ会議室を出ると第2フロアへ。まだ数人残ってた社員たちが私と赤毛さんを不思議そうな顔で見つめてる。
でも、そんなこと気にすることなく、赤毛さんは平然と部長室のドアを開ける。
「そこのソファーに座れ。今、コーヒー持ってきてやる」
慌しく赤毛さんが部屋を出て行くと私は涙を拭い顔を上げる。
スペースは銀の部長室と同じ。でも、ほとんど何も置いてない銀の部屋とは対照的に、赤毛さんの部屋は色んな物が所狭しと置かれていて、まるで小学生の子供部屋みたい。
「お待たせ~ほら、飲めよ」
手渡された紙コップのコーヒーを一口飲む。
「……苦い」
「ったく、砂糖いるなら先にそう言えよ~」
自分のコーヒーをデスクに置き、また部屋を飛び出して行った。そして、スティックシュガーを2本手に持ち帰って来ると私の隣に腰を下ろす。
「入れてやるよ」
「あ、ありがと……」
サラサラと音をたて、コーヒーに吸い込まれていく砂糖を見ながら赤毛さんがボソッと言う。
「沢村部長と喧嘩でもしたか?」
「……違う」
「じゃあ、なんで会議室で泣いてたんだよ」
赤毛さんに言えるはずも無く、黙って再びコーヒーを一口飲んだ。
「おいしい」
少しだけ笑顔になれた。
「言いたくないなら言わなくていい。でもさ、桃尻ちゃんは泣いてる顔はブサイクだぞ。笑ってた方が、ちっとはマシに見える」
言葉はとっても失礼で酷い。でも、その声はとても優しかった。