この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
●仕組まれた罠
あれから何度も携帯を開けたり閉じたり。結局、銀に電話は出来なかった。
朝、いつもの様にバタバタと用意をしてると華がムスッとした顔で私のとこにやって来た。
「ミーメさん、パパのお水、かえてないでしょ?」
「あ……」
華が言ってるのは、死んだと思ってる架空の父親のこと。私のお手製のダンボールで作った仏壇に毎朝欠かさず手を合わせてる。
「毎日、ちゃんとお水かえてあげなきゃダメじゃん! パパが喉乾いて死んじゃったらどーするの?」
「あ、ははは……ごめん」
てか、一応、もう死んでるんだけど……
苦笑いしながら仏壇に供えてある湯のみにお水を入れ華と並んで手を合わせる。
「ねぇ、華はパパ、欲しくない?」
「はぁ~? 華のパパは死んじゃったパパだけだよ。ミーメさん、変なこと言わないでよね」
「あ、そうだね。ごめんごめん」
その華の笑顔を見て、銀のことを言わなくて良かったと心の底から思った。この嘘は突き通さなきゃダメだ。
今日は珍しく余裕で会社に着いた。
でも、足取りは重く気持ちはどんより。タイムカードを押し、デスクに座るといきなり内線が鳴る。
「はい、神埼です」
『部長室へ来い』
銀だ……
仕方なく立ち上がり、部長室へ……
「お早うございます」
資料から視線を上げた銀が機嫌悪そうに私を見る。
「昨夜、携帯に掛けたのに、なんで出なかった?」
「あぁ、それか……早く寝ちゃったから気付かなかった。なんか用だったの?」
「なんだ? その面倒くさそうな言い方は? せっかく飯食いに連れてってやろうと思って電話したのに」
いつもの私なら、オーバーに残念がる所だけど、今日の私はノーリアクション。
「そうなの……」
そんな私の変化に気付かない銀じゃない。
「どうした? 今日のミーメ、変だぞ」