この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

銀は私と居ても幸せにはなれない。やっぱり私と銀は住む世界が違うんだ。


貧乏神だもんね、私……


お昼前にオフィスに戻ると銀はアポで出掛けていた。久しぶりに橋倉さんと社員食堂でランチをする。


キッチンがヤケに静かだと思ったら、桃ちゃんが休みだった。桃ちゃんは未だに銀をそっくりさんだと思ってる。そろそろホントのこと話してあげなきゃね。


無言で黙々と食事する私を眺めてた橋倉さんが心配そうな顔で話し掛けてきた。


「どうしたの? いつもの元気はどこ行ったのかしら?」

「私だって、静かに食べる時くらいありますよ」

「ありえない。絶対、なんかあったでしょ?」


橋倉さん、意外としつこい。


「部長と喧嘩でもした?」

「喧嘩じゃなくて……でも、別れることにした」

「はぁ~?」


橋倉さんの食いつきはハンパなく、とうとう昨日ことを話す羽目になってしまった。


「そんな……部長に、女?」

「多分、田村さんですよ。彼女が本命で、私が浮気ってとこじゃないかな?」

「まさか、そんな……」

「それに銀は、どっかの立派な会社で重要なポストにつくそうだし、私なんかが傍に居ちゃ邪魔なだけ。そういうことだから、ご馳走さま」

「ちょっと、それって、なんのこと? それに、華ちゃんのことはどうするの?」


橋倉さんが慌てて立ち上がったその時、彼女の後ろに田村さんの姿が見えた。


あの笑顔で私を見てる。


「華は私一人の子だよ。父親は……死んだんだ」


吐き捨てる様にそう言うと私は橋倉さんを残し、逃げる様に社員食堂を飛び出した。



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