この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
銀、そんな目で私を見ないで。
どうせ離れる時がくるのなら、今別れよう。それがお互いの為には一番いい。
「そうだよ。私、赤毛さんと行く……」
私の答えに絶句した銀の手が襟元から力無く滑り落ちる。
「……勝手にしろ」
オフィスのドアが凄い音をたて閉まった。
銀……
振り返る私の腕を今度は赤毛さんが引っ張る。
「行くよ」
「あ、うん」
赤毛さんに連れられた場所は、セレブが好みそうなお洒落なバー。オレンジ色の間接照明が照らすカウンターに並んで座った。
聞いたこともない名のカクテルを頼むと赤毛さんは深く息を吐く。
「これで沢村部長と桃尻ちゃんは終わったな」
「……そうだね」
「後悔してる? 俺と来たこと」
「後悔なんて……」
「まだ未練アリってとこか……」
「そんなことない」と首を振る私を見て、赤毛さんは苦笑いを浮かべる。
「そんな簡単に忘れられるワケないよな。でも俺と付き合えば、アイツのことなんてすぐ忘れるさ」
相変わらず自信満々だ。
「それより、会社の人に私達が一緒に帰ったのバレちゃったんじゃない? 大丈夫?」
「またそれか……前にも言ったろ? 俺は専務の息子だぜ。左遷なんかありえねぇよ」
「赤毛さん、ソレ、あんまり得意げに人に言わない方がいいよ」
「なんで?」
「嫌われるから」
驚いた顔で私のことを凝視する赤毛さん。
「女にそんなこと言われたの初めてだ。普通はさ、『すごーい!』とか言って擦り寄ってくるのに……」
「バカみたい。それって、赤毛さんを好きなんじゃなくて、専務の息子の赤毛さんが好きなんじゃないの?」
赤毛さん、かなりショックだったみたいで、暫くどんより俯いてた。
でも、何を思ったか、急に私の手を握り、とんでもないことを叫んだんだ。
「結婚しよう!」