この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

「ミーメ、ヤケにご機嫌だな? ニンジン頭とデートして楽しかったか?」

「あ、あの……」


これ以上無いというくらい険悪なムードだ。


「沢村部長、家で待ち伏せとは……アンタ、意外と根暗だな。天下のプレーボーイの名が泣くぜ」

「なんだと?」


銀を挑発しながらタクシーを降りた赤毛さんが徐に私の肩を抱く。


「あ、赤毛さん、やめて……」

「んっ? なに照れてんだよ。俺たちはもう……だろ?」


そう言いながら、これ見よがしに指で私の顎をクイッと持ち上げ、銀の見てるその前で、キスした……


髪をかき上げ、舌を絡め、濃厚なディープキス。


何故だろう……私は抵抗することが出来なかったんだ。


「ミ、ミーメちゃん!」


ママが驚いて駆け寄って来る。


「ちょっと、お兄さん! この子は銀ちゃんの彼女なのよ。ふざけたマネしないで!」

「ふざけてなんかないさ。今日から彼女は俺の女なんだから」

「はぁー?」


ママと赤毛さんが言い合っている間、銀はピクリとも動かず、私を見てた。


睨んでるワケでもなく、ただ、ジッと私を見てた。そして、その視線を横に向けると――


一言「もう、いい」そう言って、ゆっくり歩き出す。


「ぎ……ん」


声にならない声を絞り出し、彼を追いかけようとする私を赤毛さんは強引に引き止めた。


「これでいいんだよ。どうせ、今から他の女のとこ行くんだ。アイツのことなんて忘れろ」


他の女……


田村さんの顔が脳裏を掠める。


複雑な想いが交差し、私は銀を引き止めることが出来ず、成すすべ無く呆然と立ち竦むしかなかった。


銀……


遠ざかる銀の背中は、どんどん小さくなり、そして、闇の中に消えていった――


< 170 / 278 >

この作品をシェア

pagetop