この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

――次の日


銀は私を避けていた……というより、彼の中で私の存在自体を完全に抹殺したみたいだった。


昨夜は、あれからママにこっぴどく叱られ、反省文まで書かされた。


1ヶ月間、門限は8時。遅れたら罰金1万円。さすがママだ。痛いとこを突いてくる。


そして、約束の日がやってきた。田村さんに返事をする日だ。


答えはもう決まってる。銀と私の仲は既に修復出来ない所までこじれてしまった。


終業時間の少し前、田村さんが私のデスクにやって来て、あの笑顔を見せ会議室のある方向を指差す。


私が無言で頷くと安心した様に席を離れて行った。


「田村さんと約束でもあるの?」


隣の席の橋倉さんが探る様に聞いてきたけど、私は笑って誤魔化した。


不満げに眉を下げる橋倉さん。


橋倉さんを巻き込む訳にはいかない。これは、私ひとりの問題だから。


銀の淡々とした終礼が終わり、部長室へと戻って行く彼の後姿を目で追う。


これでいいんだ……銀の将来の為にも、私はあなたの傍に居ちゃいけないんだ。大好きだったよ。銀。きっと、これからもずっと……


覚悟を決め立ち上がるとオフィスを出た。でも、その前に、ちよっとトイレ。


ヤダ、どうしてこんなに緊張するのよ! しっかりしろ。ミーメ!


自分を励ましトイレを出るも、会議室までの数メートルが果てしなく遠く感じる。


それでもなんとかドアの前に立つと深呼吸を1回、2回、3回、10回……ヤバ、過呼吸になりそうだ。


緊張で冷たくなった指先がドアノブに触れた。


「よし!」


一気にソレを回そうとした時、会議室の中から田村さんの金切り声が聞こえ、思わず手を止める。


な、何?


「……バカ言わないで! なに考えてんのよ!」


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