この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
田村さんの他に誰か居るの?
息を殺し、聞き耳を立てる。
でも、聞こえてくるのは田村さんの怒鳴り声のみ。相手の声は小さくて聞き取れない。
「私は上手くやったわよ。そっちはどうなの?」
全神経をドアに押し付けた耳に集中させてたせいで、私は後ろから近づいて来る人の存在に全く気付かなかったんだ。
ドアノブを持つ私の手を誰かが包み込む様に握った。
「ひぃー!」
「声出すな」
「ぎ、銀、どうしてここに?」
「シッ! 黙ってろ」
慌てふためく私の唇に銀が人差し指を立てる。
これは、非常にマズい状態だ……
「銀はあっち行って。関係無いんだから……」
「なにぃ?」
私を見下ろす銀の瞳の中にメラメラと燃える怒りの炎が見えた様な気がした。
「お前が俺に意見するとは何事だ! そんなのはな、百億万年はぇーんだよ。黙ってろ! ボケ!」
百億万年……果たして、その頃に地球は存在してるんだろうか?
「ったく……橋倉君に大体のことは聞いた。俺に関係大アリじゃねぇか。ひとりで抱え込みやがって……バカが」
あちゃ~橋倉さんたら、お喋りなんだから~
何も言い返せないでいると銀は私の手を握ったままドアノブをゆっくり回し始めた。
「銀?」
「少し開けるだけだ。このままじゃ聞こえねぇ」
その意見に関しては、賛成だ。
そろりそろりとドアを開け、隙間から中を覗くと苛立った顔をして腕組をしている田村さんの姿が見えた。
でも、銀は平気なんだろうか?
私の頭を過ぎったある思い。
私と田村さんが銀のことでモメてる場所にわざわざ現れるって、どういうこと?
下手をすれば、ドロドロの修羅場になってもおかしくない最悪なこの状況。ホントなら、関わりたくないと思うはずなのに……焦るどころか平然としてる。
まぁ、そんなとこが銀らしいんだけど……
疑問を抱きながら再びドアの向こうに目をやると、もうひとりの人物の後姿がチラッと見えた。
「えっ、うそ……」
私にとって、その人物はとても意外な人だった。