この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

「ねぇ、銀、ウチの会社に、轟って人居る?」

「……轟? ソイツがどうした?」

「うん、前に会社の階段でぶつかったんだけど、その人、私のこと知ってたのよね。これはあくまで私の考えなんだけど、その人、私のお父さんじゃなかと思うんだ~」

「マジかよ?」

「多分……」

「残念だが、ウチの会社には、轟なんてヤツは居ないな」

「そっか……」


やっぱり、会社の人じゃないのか……


天ぷらをご馳走になってから、教えてもらった携帯の番号に何度掛けても繋がらない。奥さんに遠慮しているのかもしれないな。


「その轟とかいうヤツ、ミーメを見て、すぐお前だって分かったのか?」

「うん」


銀は不思議そうに私をマジマジ見つめ、そして言った。


「おかしな話しだな。ミーメは本当の父親と3歳の時に別れて、その後、一度も会ってないんだろ?

それから20年経ってるんだ。いくら父親でも成長した娘を一目で判断出来るものなのか?」

「あ……」


そう言えば、そうだ。おっちゃんは、私を見てすぐ名前を聞いてきた。私が"神埼美衣芽"と知ってのことだとしたら……


なんともミステリー。実に怪しい話しだ。


「あんま、変なヤツと関わるなよ。それでなくてもミーメは食い物には弱いんだ。旨いモン食わせてやるとか言われたら、ホイホイ着いて行きそうだもんな」

「あ、ははは……」


当たってる。既にホイホイ着いてったし……


いや待てよ。もしかしたら、あのおっちゃん、エレベーターも使わずコソコソと階段を利用してたってことは、会社の人に正体を知られたくなかったからかも。


て、ことは、おっちゃんは産業スパイで、情報収集の為に会社に潜り込んでいた?


私の名前を聞いて、素性を調べた上で会いに来て、さも味方みたいな顔して今度は私を利用する気だったとか?


でも、連絡が無いってことは、私に利用価値が無いと判断したのか?


おのれぇ~人をバカにして~許せん!


私の中で、おっちゃんは産業スパイということになり、敵と結論付けられた。


勝手な妄想は留まるところを知らない。


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