この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

赤毛さんがここに来た理由……それは、今私が見ているメール。


「桃尻ちゃんも見たのか?」

「……うん」

「いいか? こんな誰が送ったか分からないメール信じるな」

「赤毛さん……」


この時ほど、彼が頼もしく思えたことはない。


「でも、この男の子。銀にソックリ」


瞬きも忘れ、男の子の顔を凝視する。


「そんなの修正して似せることだって出来るさ。でも、営業部全員のパソコンに送ってくるなんてイタズラの度を越してる。

もしかしたら、ここだけじゃないかもな……上層部に送られてないか親父のとこ行って確かめてくるよ」


「うん……」と答えたものの、まだ思考回路は止まったまま。


銀の居ない間、このフロアの責任者を任されている課長が仕事を始めろと怒鳴っているけど、皆それどころじゃないって感じだ。


そうだよね。自分の直属の上司が社長の娘との間に隠し子が居たなんて興味ないはずがない。


「ねぇ、橋倉さん、鳳来怜香さんって、どんな人なの?」


今にも消え入りそうな声で訊ねる。


「彼女は秘書課の課長で、社長秘書。そして、社長の娘でもあるわ。歳は確か、部長より2つ上の32歳だったかしら?

凄いやり手で、男なら間違いなく次期社長だったって噂よ」

「そんな人が銀と……」


その時、私はあることに気付いたんだ。


鳳来怜香――れいか……れい……か?


それは以前、銀の口から聞いた名前だった。


居なくなった銀を探し、マンションを訪ねた私を銀は抱いた。他の女性と間違えて抱いたんだ……


あの時、銀が言った寝言。今でもハッハリ覚えてる。


『――れいか……腹減った……メシ』


あの"れいか"という名の女性は、鳳来怜香さんのことだったの? もしそうなら、あの男の子はその頃の……


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