この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
子供の様に泣きじゃくる私を横田さんは何も言わず、抱きしめてくれていた。
せっかくの誕生日を台無しにしたのに、少しも嫌な顔しないで家まで送り届けてくれたんだ。
優しい人……
そう思いながらも、銀と怜香さんの楽しそうな顔が浮かんできて、また、涙が頬を伝う。
もう、決定的だよね。こっちに帰って来たのに、私にはなんの連絡も無い。貴重な時間を割いて会っていたのは怜香さん。
銀にとって、どちらが大切な存在なのか、考えるまでも無い。銀は怜香さんを選んだんだ……
――次の日
会社に行くと橋倉さんが……いや、オフィス全体がザワついてた。
「神埼さん、部長が来てるわよ」
「……そう」
「そうって、驚かないの?」
「昨日、会ったし」
仕方なく昨夜の出来事を話すと橋倉さんは絶句。私を慰める言葉も思いつかない様だ。
「じゃあ、これは……」
橋倉さんが手に持ったメモを恨めしく眺める。
「なんですか?」
「あ、あのね、いや、でも……」
「どうしたの?」
いつもの冷静な橋倉さんにしては珍しく、やけにオドオドしてる。
「……実はね、さっき、神埼さんにクライアントから電話があって、バリ島のリゾート会員権を検討したいって言ってきたのよ」
「えっ? ホント?」
「えぇ、でも、法人だから、ちゃんと説明出来る人と一緒に来て欲しいって」
「ちゃんと説明出来る人?」
「クライアントは、部の責任者を指名してきたの」
「責任者……」
銀のことだ……
「部長が帰って来ているから、丁度いいと思ったんだけど……」
昨日の今日だ。まだ気持ちの整理がつかない。
「誰か他の人にして欲しい……」
そう言った私の背後で声がした。
「俺が行く」