この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
「橋倉さん、これって……」
パソコンの画面を見据えたまま橋倉さんの袖を引っ張ると、赤毛さんと田村さんもイチャつくのをやめ一緒に画面を覗き込んできた。
絶句する3人。
「これって、ヤバくない?」
田村さんの問いかけに、橋倉さんと赤毛さんが大きく頷く。
それは、社長の息子、副社長からの呼び出しだった。
なんだろう? なんだろう? なんだろう?
緊張マックスでエレベーターを降りる。
ゲッ! この階の廊下は赤絨毯だ。
橋倉さんの話しによると、この最上階のフロアは、社長、副社長、専務、常務それぞれの部屋があるだけの役員ゾーン。一般社員は立ち入ることさえ許されない魔の領域だそうだ。
そんな所に、なんで私が呼ばれるの?
ガラス張りの自動ドアをおっかなびっくり入ると、そこは秘書室になっていて、銀座の高級クラブに居る様な美人さんがウヨウヨしていた。
さすが秘書課だ。美人で頭がいいなんて、神様はなんて不公平なんだろう。
その中でも一際目立つひとりの女性が私の方にやってきて「神埼さんですね?」と声を掛けてきた。
この人は……鳳来怜香さん。
「は、はい」
「副社長がお待ちです。こちらへ……」
表情を変える事無くそう言うと私の前を颯爽と歩き出す。廊下の壁には、意味不明な抽象画がいくつも掛かっていて、首を傾げながら怜香さんの後を着いて行く。
暫く歩くと怜香さんは大きな扉の前で立ち止まった。そして、振り返った彼女が私をジッと見る。
威圧感がハンパない。私はヘビに睨まれたカエルみたいに身動き一つ出来ず、その吸い込まれそうな綺麗な瞳から目を逸らすことができなかった。
全く隙が無い。銀は、こんな女性が好きなの? だったらなぜ、怜香さんと正反対の私と付き合ってたの?
敗北感に打ちひしがれ眉を下げると怜香さんのローズ色の唇が微かに動いた。
「あなた、沢村部長とは長いそうね?」
「えっ?」
「お付き合いしてるんでしょ? 別に隠さなくてもいいのよ。このことは、沢村部長に聞いたんだから。
でもね。そろそろお遊びは終わりにしてもらわないと……こちらにも色々、都合があるのよ」