この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
「都合……ですか?」
「そうよ。後は副社長からお聞きになって」
怜香さんが重厚な扉を押す。
「神埼さんをお連れしました」
部屋の奥の大きなデスクに座った若い男性。この人が、副社長?
社長の息子だから、親の七光りを受け甘やかされて育ったモヤシ野郎だと思っていたけど、全然違っていた。
この若さで、立派な副社長室に居てもなんの違和感も無く。漂ってくる雰囲気は柔らかく上品で、それでいて絶対的な存在感がある。
「やぁ、わざわざ来てもらって申し訳ない」
穏やかな笑顔を見せ、私の元に歩み寄ると怜香さんに「もういいよ」と軽く手を上げる。
「副社長、私もご一緒していいかしら?」
「どうして?」
「私にも関係あることだから」
怜香さんの鋭い視線が私に向けられた。
「君が居ると神埼さんが萎縮してしまうよ。仕事に戻りなさい」
「いいえ、お兄さん、私も同席させて……」
「仕事中は専務と呼ぶことになっているだろ? いいから戻りなさい」
怜香さんが不服そうに部屋を出て行くと、副社長は私の腰に手を当て、ソファーに座るように促す。
優しそうな人……
でも、そう思ったのは、ほんの一瞬。彼が口にした言葉は残酷なものだった。
「時間が無いから単刀直入に言うよ。今後一切、沢村部長とは関わらないで欲しい」
「えっ……」
「君と付き合ってるということは、沢村部長から聞いた。随分昔からの付き合いのようだね。でも、君と沢村部長のことは祝福出来ない」
微笑みは絶えなかったけど、その目はちっとも笑っていなかった。
「彼は鳳来物産を支えていく男だ。そんな人間には、犠牲にしなくてはいけないモノがある」
「犠牲……ですか?」
「そう、己の気持ちを殺してでも会社の為に尽くす。そんな決意が欲しいんだよ。だが、彼は自分は自分。会社は会社という考えのようでね。だから、今まで結婚を反対してきた」
銀と怜香さんが子供が居ても結婚しなかったのは、それが理由だったのか……
「でもまぁ、そろそろいいかと思ってね。実は、沢村部長に結婚の話しがある」
土曜日の結納のことを言ってるんだ。やっぱり、あれは事実なんだ。
「彼にとっても、会社にとってもいい縁談だ。だから、君が沢村部長と特別な関係のままでは困るってことだ。分かるね?」