この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
"全然、分かんない"
そう叫びたかった。でも、そんなこと言えるワケない。
「沢村部長には、鳳来ファミリーとして自覚を持って仕事をしてもらいたい。君に邪魔されたくないんだよ」
私が……邪魔?
そこまでハッキリ言われたら、なんか胸のつかえが取れ、かえってスッキリした。
そして"鳳来ファミリー"というワード。それはまさしく、銀が怜香さんと結婚して、鳳来一族の一員になると言うことを意味していた。
「副社長さん。私は沢村部長とは、もう付き合ってません。部長は私のこと避けてますし、私ももう、よりを戻すつもりはありませんから……」
「そう……」
副社長は静かに頷き、大理石で出来たシガーケースから洋煙を取り出すと満足げにそれを銜える。
「いい決断だね。君は利口な女性だ」
「いえ、私はバカな女です」
「そんなことはないよ。君は自分の立場をちゃんと理解している。これからも会社の為に尽くしてくれそうだ。
今回のことで君には嫌な思いをさせてしまったが、それなりのことはさせてもらうつもりだ。今月の報奨金を楽しみにしていなさい」
報奨金? お金で解決しようとしてるの? 酷い……私の銀への気持ちをお金なんかで汚されたくたない。
「それは、お断りします。報奨金は私の成績に見合った金額で結構です」
そう言うと私は一礼して副社長室を後にした。
真っ直ぐ前を向き、秘書室の怜香さんと目を合わせる事無くエレベーターめがけて早足で突き進む。
銀は私とは違う世界で生きていく人なんだ。もう迷ったりしない。綺麗サッパリ忘れる。忘れてみせる……
高速で下りて行くエレベーターの中で、銀の携帯番号を着信拒否に設定した。
なぜだろう……不思議と涙は出なかった。