この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
オフィスに戻ると既にお昼休みは終わっていて、私は何事もなかった様に自分のデスクに座る。
橋倉さんが心配そうな顔で私の顔を覗き込み、遠慮気味に聞いてきた。
「副社長、なんだって?」
「銀のことです。別れろって言われた……」
「えっ……」
「怜香さんとの結婚に、私は邪魔だって」
「そんな……」
「でも、もういいの。銀には銀の……私には私の人生がある。私みたいな下流の女が銀を好きになったのが間違いだったのよ。それに気付いたから……銀のことは忘れる」
橋倉さんは「ホントにそれでいいの?」と何度も聞いてきた。
「いいの。決心したんだから……」
*****
――次の日、金曜日。
明日は華の保育園最後の運動会。そして……銀と怜香さんの結納の日。
朝からアポの用意でバタバタしていたら、田村さんに腕を掴まれ廊下に連れ出された。
「なんっすか? 私、今から出なきゃいけないんだけど……」
「部長が帰って来てる」
「えっ?」
「最後のチャンスよ。どうする?」
田村さんは鼻息荒く、既に戦闘態勢に突入してる。
「だから、もうその話しはいいんだって」
「結納は明日なのよ! 今日なんとかしないと手遅れになるのよ!」
「分かってる。でも、ホントにもういいの。銀が幸せになるんだもん。応援してあげないと……」
私のことを思ってくれてる田村さんの気持ちが嬉しくて、涙が滲む。
「田村さん……ありがとね」
私の腕を掴んでいた田村さんの手から力が抜けていく……
「後悔しない?」
「……しないよ」
そう、これでいいんだ。これで、いいんだよね? 銀……
そして私は、逃げる様に会社を出たんだ。
今日一日、銀に会わないことを願って……