この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
心の整理がつかないまま、結婚の準備は着々と進んでいく。
余りの忙しさに、お正月なんてあったの? って感じで、ダイエットもしてないのに3㎏も体重が減っていた。
――今、私と銀は部長室で向かい合い、無言でため息をついている。
私たちを悩ませていたのは、横田さんのこと。実の父親の横田さんを結婚式に呼ぶのは当然のことだ。でもそうなると、お母さんと顔を合わせることになる。
かなり昔に離婚してると言え、お互いがどんなリアクションを取るのか、全く想像がつかない。
「横田さんを呼ばないワケにはいかねぇだろ? 横田さんには、義母のことは黙ってろ。なんとかなるさ」
「……うん」
あぁ~気が重い。
「そろそろ定時だ。ミーメはオフィスに戻れ」
肩を落として自分のデスクに戻ると銀の終礼が始まる。
「また突然で悪いんだが……皆に報告がある」
「んっ? 報告?」
「実は、俺はここに居る神埼美衣芽と既に結婚してる。以上だ」
はぁ? 私に相談もなく、勝手に言っちゃった……でも、またそれだけ?
しかし、なんかおかしい。銀のカミングアウトを聞いても、オフィスはシーンと静まり返ってる。
もしかして、社員全員の反感を買ってしまったのかと焦ったが、暫くするとパチパチと手を叩く音が聞こえてきた。次第にそれはオフィス全体に広がり、祝福の声と拍手が私と銀を包む。
「みんな……」
「部長が悪趣味だと知った時から、こうなるんじゃないかと思ってたわよ~」
誰かが叫ぶと嫌味な言葉があちらこちらから飛んでくる。でもそれは、とっても温かくて優しさに溢れていた。
何度も頭を下げ、感謝の気持ちを伝えてる私は、鼻水垂らして号泣。
「ありがとう……皆、ホントにありがとう」
感激しまくってると難しい顔をした田村さんが、ヒールの音を響かせ私の方に歩いてくる。そして、徐に怪しい包みを私に差し出した。
「これは?」
「"社内恋愛禁止撤回"を希望する社員たちの署名よ。女性社員全員が部長のこと諦める代わりに、この悪法をなんとかしなさい。それが神埼さんに課せられた使命よ!」
使命って……そんな大げさな……でも、確かに社内恋愛禁止なんてバカげた決まりだ。
「分かった。なんとか掛け合ってみる」
そもそも、コレを決めたのは、常務である私のお母さんなんだもん。私にも少なからず責任がある。
でも、自分が赤毛さんとオープンに付き合いたいから、社内恋愛禁止を撤回させる為に女子社員全員を巻き込んで署名させるなんて、さすが田村さんだ。