この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止


写真撮影も無事終わり、披露宴会場の扉の前でスタンバイしていると地獄の底から響いてくる様な恐ろしい声で名前を呼ばれた。


ゾゾゾ……ッ


「お、お母さん」

「ミーメちゃん、あなた、横田が来るなんて、一言も言ってなかったわよね? それに何? あのケバい女! 結婚式の最中にゲロするなんて、ありえないわ」

「……確かに、ゲロは凄かったねー」

「で、誰なの? あの女は!」

「あ、うん。あの人は横田さんの婚約者で……妊娠してるから、つわりが酷くて……」

「な、横田の婚約者? 妊娠ですって?」


お母さんはワナワナと震え、目を血走らせて発狂寸前。私の着物を掴んで怒鳴り散らしてる。


「お母さん、落ち着いて……」


『それでは、新郎新婦の入場で御座います』


「おい、もう披露宴始まるぞ!」


銀がお母さんを引き離そうとしてくれるけど、怒り狂ったお母さんは我を忘れ、私にしがみ付き離れようとしない。


『では、拍手でお迎え下さい』


バターン!!

大きな白い扉が開き、スポットライトが私と銀、そして、お母さんを照らす。焦った銀が力任せにお母さんを引っ張ると、それを阻止しようとお母さんが私のカツラを掴んだ。


スポッ……


「へっ?」


急に頭が軽くなったと思ったら、目の前を私の頭が飛んでいく。そして、髪飾りがライトの光に反射し、キラキラと輝きながら大きく円を描き親族席の方に落ちていくのが見えた。


「ああぁ~私の頭がぁ……」


着物の裾を持ち上げ、カツラに向かって猛ダッシュ!


「うりゃ~!」


ダイビングキャッチを狙ったが、カツラは私の指を掠め、横田さんの脳天を直撃。その反動で隣の橋倉さんの顔面に炸裂するとテーブルの上で跳ね上がり、その前のおかまちゃん軍団が座るテーブルへと飛び、キャサリンママの頭の上にチョコンと乗っかり止った。


全員が、笑いたいのに笑えない拷問みたいな披露宴会場。


司会者だけが落ち着きはらい『お笑いのお好きな新郎新婦による余興でしたー』などと言って誤魔化そうとしてるけど、きっと誰も信じまい。


私の頭に戻ってきたカツラは歪み、シャンパンまみれでグッショリ。それでも笑顔で高砂に座ると何事も無かった様に披露宴が始まった。


会社関係や政界、財界からの招待客が約300名。銀のお披露目も兼ねた披露宴なんだ……


さっきの出来事に、まだ動揺しているのか、乾杯の音頭を取る専務さんの挨拶はカミカミで、何を言ってるのかさっぱり分からない。理解出来たのは、最後の「乾杯!!」と言う言葉だけ。


でも、その意味不明な挨拶を立ち上がり「ブラボー」と絶賛していたのは田村さん。未来のお義父さんになるかもしれないものね。さすが、抜け目ない。


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