この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
嫌だ! 嫌だ! 結婚したばかりなのに、殺人犯の妻だなんて冗談じゃない。
でも、もう披露宴どころじゃないよね……そう思ってため息をつくと、社長さんが招待客をまわり、続きをさせて欲しいとお願いし始めたんだ。
それを見た銀がニッコリ笑い、私の手を引き、高砂に向かって歩き出す。
「次は、ケーキ入刀だな」
「銀……」
誰一人帰る人無く、半分溶けてしまったケーキにふたりでナイフを入れると盛大な拍手が巻き起こった。
「こんな披露宴で、すまない」
「そんなことないよ。結構、楽しいし」
見つめ合い、幸せをかみ締めていると、さっきの放水でマイクが壊れてしまったのか、司会者が生声で声を張り上げる。
「それでは~続きましてぇ~新郎新婦より、ご両親様への花束贈呈で御座いますぅー」
扉の前に場所を移し、花束を渡そうとするとお母さんが橋倉さんを睨み、吐き捨てる様に怒鳴った。
「結婚もしてないのに、母親ヅラしないで欲しいわ!」
でも、橋倉さんも負けていない。
「私は会社でも私生活でも、神埼さんを陰日なたになって支えてきたのよ。あなたにとやかく言われる筋合いは無いわ!」
「よく言うわ! 大事な結婚式でゲロして、ぶち壊したのはどこの誰よ!」
「あら? 花嫁のカツラを飛ばしたのは、誰だったかしら?」
またか……
私と銀が言葉も無く肩を落とし、ため息をつく。が、そんな険悪な雰囲気に終止符を打ったのは、横田さんだった。
「ふたり共、いい加減にしなさい。大切な娘の披露宴なんだよ。いがみ合ってどうする? 祝福してあげるのが親だろ?」
そしてお母さんに向かって優しく微笑む。
「君が幸せそうで良かった……」
「あなた……」
「ずっと気になってたんだ。良かった。本当に良かった」
お母さんの顔から怒りの表情が消えていく。
「本当に、そう思ってくれるの?」
「当然だよ。一度は夫婦として一緒に暮らしてたんだ……君の不幸な姿なんて見たくないよ」
「あぁ……ありがとう」
お母さんは震える声で、横田さんとの約束を破り、私を連れ去ったことを謝罪して深々と頭を下げた。
「いいんだよ。もう昔のことだ。今日こうやって娘の晴れ姿を見れただけで、僕は満足だよ」
横田さんの優しい言葉に、社長さんまでもがウルウルしてる。で、橋倉さんはと言うと……そんな話し、全く聞いてないみたいで……
「ウェッ! 気持ち悪い……」
「もぉ~! 橋倉さん、トイレ行ってぇ~」