この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
なんだろう……このモヤモヤとした気持ちは……
彼の背中がどんどん小さくなっい行くのが堪らなく寂しい。
「ぎん……のじょう……」
聞こえるはずのない小さな声で彼の名を呼んだ。
もう二度と会えないのかもしれない。うぅん、きっと会えない。
言いようのない喪失感。お母さんが家を出て行ったことを知った時と同じ感じだ。でも、彼を追いかけることは出来なかった。彼を引きとめる理由が見当たらないから。
私の前に嵐の様に現れた銀之丞。別れは、とても呆気なく穏やかだった。
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私立 桜ノ宮高校 1年A組
午前中の授業は、ほとんど上の空。
お昼休み。唯一の友達、亜紀菜と教室で向かい合いお弁当を食べる。このお弁当は、私に同情した亜紀菜のお母さんが作ってくれたもの。
「いつも悪いね……」
「な~に、私のも作るんだから構わないよ。それより、元気無いじゃない。なんかあったの?」
「う……ん」
亜紀菜には言ってもいいよね。
私は母親が家を出たことを打ち明けた。
「うっそー!」
仰天する亜紀菜。
そうだよね。母親が家出するなんて普通じゃない。
すると亜紀菜は難しい顔をして自分の机から一枚のプリントを取り出し、私の目の前に置く。
そのプリントには『家庭訪問』の文字が……
「コレが、何?」
「何言ってるの。親が居ないのバレちゃうよ?」
「それが?」
「もう! 知らないの? この高校、ひとり暮らし禁止! 下宿か保護者と同居してないと退学なんだよ」
「……マジっすか?」
知らなかった……