この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

それからの私は銀のことを忘れようと必死だった。でも、アパートに帰ると嫌でも思い出してしまう。


ここで銀と暮らした日々は私にとって、人生で一番幸せな時だったから……


分かてる。こんなんじゃダメだ。気持ちの整理をして前に進まないと……


あやふやなまま別れてしまったから、いつまでたっても忘れられないのかもね。


時間は掛かったけど、私はようやく決心した。


銀と会って、ちゃんとケジメをつけよう……


私はバイトを休み銀が入って行ったマンションの向かいのビルの陰から様子を伺っていた。


――スーツ姿の銀を見かけてから既に1ヶ月。季節は変わり暑い夏を迎えていた。


1時間……2時間……時間は無情に過ぎていく。


とうとう日付が変わってしまい、闇夜に一人で居ると段々心細くなってくる。


もうここに住んでないのかも……


そんな思いが脳裏を過ぎった時だった。マンションの前に止まったタクシーから男性が降りてきたのが見えた。


「あ、銀……」


酔っ払ってるのか、千鳥足でフラつきながらマンションの玄関に向かってる。


慌てて飛び出したけど、道路を走る車が途切れず渡れない。足踏みをしながら数台の車をやり過ごし、やっと道路を渡った時には既に銀の姿は無かった。


おまけにマンションはオートロックで中に入ることすら出来ない。


せっかく今まで待ってたのに……銀が、すぐそこに居るのに……


開くはずのない玄関のガラス扉を力無く叩く。


するとエレベーターが到着し、若い女性が降りてきた。


おぉ! もしや、これは天の助け?


女性は難なくドアを開け外に出て来る。


チャーンス! とばかり女性の横をスルリと抜け、見事マンションに侵入成功!


よっしゃーー!!


< 53 / 278 >

この作品をシェア

pagetop