この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

そして案内されたのは、華やかな大通りから細い路地に入ったなんともいかがわしい飲み屋街。


「ここよ」

「……ここ、ですか?」


古めかしいビルの1階に掲げられた看板には『エデンの園』と書かれてあった。


なんかヤバそう。実に胡散臭い。


「どうぞ、入って」


薄暗い店内に足を踏み入れるとカウンターの中に巨大な物体がうごめいているのが見えた。


「うほっ!」


ヒビる私を気にすることなく美人さんがその物体に声を掛けた。


「ママ、ちょっと事情があって連れて来た子が居るの」

「んっ……?」


振り返った"ママ"を見て、私は逃げ出したいという衝動に駆られた。


あの、ファミレスのブス男など目じゃない。眉毛が無く、血走った瞳にゴーゴンヘビ女みたく爆発した金髪の髪。


今にもはち切れそうなパツパツのTシャツにプリントされたワンコが伸びきって気の毒になるほどだった。


「何? この子?」

「それがね、ここで働きたいんだって」


少しの沈黙の後、ママは私を舐める様にガン見すると「若いのに、もう性転換してるの? 凄いじゃない。女の子にしか見えないわ」と感心した様に何度も頷いてる。


「あのぉ~…私、生まれてからずっと、女なんですけど……」

「はぁ? ずっと女? 何それ!」


何それって……こっちが何それって言いたいんだけど。


「ここはニューハーフの店なの。女には用は無いよ。帰りな!」


もちろん、出来るものなら私もそうしたかった。でも、3050円という魅力には勝てない。人間、死ぬ気になれば、なんでも出来るさ!


銀みたいな変人相手にしてきたんだ。ちょっとくらいの変わり者の客なら平気だもん。


「私、ニューハーフのフリします。だから、ここで働かせて下さい!」


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