この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止

よくよく考えてみると、私は銀とドライブというものをしたことが無い。運転してる銀を見るのも初めてだ。


慣れた手つきでタバコを取り出し、ジッポで火を点ける仕草は堪らなくカッコよくて、つい見とれてしまう。


呆けた顔で銀を見つめていたら、いつしか車は市街地を抜け、バイパスを走っていた。


「どこ行くの?」

「行けば分かる」


つれない銀の台詞にムッとしていたら、ウインカーがカチカチと音をたて点滅しだした。何気なくウインカーが差す方向に視線を向けると……


「ゲッ!!」


ここは……世に言う……ラブホ?


「ぎ、銀……ここ、入るの?」

「あぁ」


"あぁ"って、スマしてお気楽に答えてんじゃなねぇよ! 私、どんなリアクションとったらいいの?


ガチで舞い上がってる私のことなど気にする様子もなく、銀は薄暗い駐車場に車を止めるとサッサと降りてしまった。


初体験のラブホ。しかも朝一、仕事中だ。まるでドラマ的展開。


先を歩く銀の背中を見つめながらイケナイ妄想が頭の中を駆け巡り
また心臓が騒ぎ出す。


でも、どうして?


銀は私をフッたんだよ。私のこと残してどっか行っちゃって、他の女の人と付き合ってたんだよ。


それなのに、今更よりを戻すってことなの? そんなの勝手だよ。勝手過ぎるよ!


「銀!」

「んっ?」

「私……入れない」

「なんで?」

「そんな気分になれないよ」

「もしかして、緊張してんのか? まぁ、初めてだから仕方ないか……じゃあ、俺ひとりで行って来るから車で待ってろ」

「……へっ?」


ひとりでって……まさか銀、ひとりでスるの?


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