この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
――次の日の朝、銀はまだ暗い内に帰って行った。
その後姿を私は複雑な気持ちで見送る。
目を覚ました華が銀が居ないことに気づくと、ふくれっ面をしてスネていた。
「ねぇ、銀のどこがいいの? あんな冷血男より、横田のおじちゃんの方が優しくていいじゃない」
すると華は大きなため息をつき、人差し指を左右に振る。
「あのね、ミーメさん。横田のおじちゃんは人間として好きで、銀様は男として好きなわけよ。銀様に会ったら、また来て下さいって言っといてね」
「あ、そう」
チビのくせに偉そうなことを言ってくれる。
て、のん気に感心してる場合じゃない。急がないとまた遅刻だ。今日遅刻したら間違いなく橋倉さんに殺される。
そんなこんなで、なんとか今日は遅刻しないで済んだ。
朝礼でそれらしいことを言って社員に檄を飛ばす銀。とても変人には見えない。私が知ってる銀と会社での銀。どっちが本当の銀なんだろう。
午前中の仕事が終わり、ランチの時間。今日は橋倉さんが営業に出てるから私一人だ。
廊下で多くの社員に紛れエレベーターを待ってると誰かが私の頭をパコンと叩く。
「痛ったぁ~」
「締りの無い顔してんじゃねぇよ。ほら、エレベーター来てるだろ? 乗れ」
「ぶ、ぶちょ~」
満員のエレベーターの中、銀は気づいてないだろう。女性社員達の殺気立った視線が私に向けられていることを……
地下の社員食堂に行くんだと思ってた。でも、1Fで止まって扉が開いた瞬間、私はまたもやスーツの襟を掴まれ、エレベーターから引きずり降ろされる。
「ちょっと銀、私、お腹すいてるんだけど」
「昼飯くらい俺がおごってやるよ」
「え……そうなの?」
「お前に話しがある」
「話しって、何?」
「夜露死苦の男のことだ」