卒業【短編】
すっかり人が居なくなった教室。
濃緑の色をした黒板に向かってチョークを構えた。
卒業するつもりだったのに。
だから、卒業と共にこの気持ちを学校に置いていこう。
『好きだった。ありがとう』
白く塗りつぶされた文字が滲む。
ポケットから、少し溶けかけたリンゴの飴を取り出し、口に入れた。
『お前、リンゴ好きなんだろ。これ、やるよ』
少しずつ小さくなっていく飴。
これが溶けてなくなるまで。
それまでの間は、好きでいさせて。
溶け終わったら、この場所ともお別れ。
この気持ちをおいてけぼりにしちゃうけど、好きだったことには変わりはないから。
悲しいけど、寂しいけど、これで卒業。
【fin.】