月に潜む恋情
携帯の主電源を切り部屋に戻ろうとすると、メンソール系のタバコの匂いが鼻を掠めた。
「恋人に振られた?」
「えっ?」
突然後ろから声がし振り向けば、隣のベランダで煙草を吸っている隣人と目が合った。
煙草の煙を吐きながら妖しく光る眼は、私の心を一瞬で捉える。
普段の彼はスーツをピシっと決めていて、“出来る男”を醸し出していた。
けれど今眼の前にいる彼は、シャツの胸をはだけ気怠そうに煙草を吹かし、まるで別人だった。
「今日、誕生日なんでしょ?」
「何でそれを……」
「さっき、ぼそっと呟いてた」
無意識のうちに呟くなんて……。
恥ずかしさに顔を背ける。
「俺が祝ってあげる。おいで……」
隣のベランダから腕を伸ばし、手を差し出す彼。