かけぬける青空は、きっと君とつながっている
「……行ったかい? 奈緒子は」
コトンと小さな音を立てながら湯飲み茶碗を置くと、おばあちゃんは、いくぶん寂しげな様子で、そう、お母さんの名前を口にした。
お母さんとは、口を開けば小言ばかりを言い合っていたおばあちゃんのことだから、間違っても「寂しくなったね」とは言わないと思うけれど、その佇まいや雰囲気、声の調子などから、寂しく思っているのは間違いない。
「うん、行ったよ。家に着くのは夕方頃になるって。駅まで、いろいろ話しながら歩いたよ」
「そうかい」
「なんか、嵐みたいだったね、お母さん」
「本当だよ、こんな置き土産まで残して……」
「ふふ」
あたしには、17歳だった頃のお母さんに『この土地で誰かいい人を見つけて結婚しなさい』と言った若き日のおばあちゃんの気持ちが、なんとなくだけれど、分かる気がしている。
要は、お母さんが可愛かったのだろう。
自分の手の届くところにいつもいてほしい、そんな気持ちの裏返しだったのではないか、と、お母さんが帰り、ぐっと小さくなったように見えるおばあちゃんの姿に、そう感じる。
お母さんも、きっと分かっているはず。
だって、親子だ。